慶喜の大坂城脱出

鳥羽伏見の戦いの最中に、徳川慶喜が大坂城を脱出した。
このことを、月岡芳年や長谷川貞信が「徳川治蹟年間紀事 」のシリーズの錦絵のなかで描いている。よく知られた画題「十五代 徳川慶喜公」だが、二人の錦絵はよく似た構図になっている。
この錦絵は、右端の開陽丸にこのとき蒸気役一等(機関長)として先祖の小杉雅之進が乗船しているので、気になる絵なのだ。

月岡芳年の錦絵は、
明治6年に改名した「大蘇芳年」とあるので、明治6年以降の出版だが正確な年は不明01.jpg
一方、長谷川貞信の錦絵は、右下に「長谷川貞信画」とある。
出版年は不明だが、月岡芳年の絵を真似たのは一目瞭然だ。03.jpg

慶喜脱出の理由として二枚とも錦絵の中で、「錦旗へ発砲の罪を恐れ」と説明している。
ともに、中央の小舟に「三つ葉葵」の旗印が掲げられていることから、徳川慶喜や松平容保の乗船と分かる。
船の中央に立っている、徳川の馬印を表す黒い軍扇をもつのが慶喜で、赤い陣羽織の人物は松平容保らしい。

彼方に空が赤く染まり、また立ち上る煙が見える。大坂に迫る戦場やその煙とも思えるが、炎上する大坂城の煙を描いているのかもしれない。
よく見ればみるほど、何時を描いているのか不思議な絵でもある。

慶喜の脱出は慶応4年正月6日(1868年1月30日)だが、目的の開陽丸が見つけられず、一行はアメリカ軍艦イロコイ号に一時滞在し、翌7日朝に開陽丸に乗り込む。
右端の黒い船が開陽丸とすればイロコイ号から開陽丸へと向かう場面にもなるので、正月7日時点を描いたことになる。
またバックの炎上を9日(1868年2月2日)の大坂城炎上とすれば、錦絵ではよくする手法だが、劇的効果を狙って同時には起りえない光景を一枚の錦絵に描いたことになる。

慶喜がアメリカ軍艦に一時滞在したが、その前後の事情はアメリカ側の情報から分かる。
米軍鑑イロコイ号へ乗船は、たまたま見つけた艦に一時的に乗船したというのではなく、慶喜は駐日米国公使R.B.V.ファルケンブルグの発行した米国艦イロコイ号への乗船許可を記した書状を持参していた。開陽丸が見つからないので、米艦乗船許可書を入手する手続きをしていたことになり、きちんとした手順を踏んでいたことが分かる。

米国国務省作成の外交公式文書の歴史記録に、同公使からスーワード国務長官にあてた慶応4年正月10日(1868年2月3日)付けの書簡が収録されている。
「米軍艦イロコイ号が大坂沖に到着した。(中略)大君自身がイロコイ号にその夜に乗船して、彼の船つまり日本のフリゲ-ト艦開陽丸が翌朝早く彼を乗せて江戸へ連れていくまでの間、乗船する許可を求めてきた。私はイロコイ号のイングリッシュ艦長あてに書状を書いた。大君は彼の大坂城から避難して、慶應4年正月7日(1986年1月31日)のおよそ午前2時に、彼の老中ほか幕閣たちを伴ってイロコイ号に乗船した。2時間ほど滞在し、それから彼の配下のフリゲ-ト艦へ移乗していった。すでに日中となり、彼は江戸へ引き上げていった」

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イロコイ号は、長さ198フィート、1488トン、大砲の数は13門で、艦長はアール・イングリッシュ中佐。マハン少佐は副長であった。

副長のマハン大佐は、後に海軍戦略家として著名となるが、1986年2月20日(慶応4年1月27日)付けで母宛に手紙を書いている。
「タイクーン(大君:徳川慶喜)は自らいくさをすることなく、不名誉なことに、オーサカからエドに、自軍のフリゲート艦で逃げようとしたのです。自分の艦が見つけられないので、米国領事(注:正確には米国公使)によるイロコイ号乗艦許可の書状を持参してイロコイ号にやって来ました。われわれはタイクーンを迎える名誉を担ったわけです」

慶喜自身ものちに、仏公使ロッシュに江戸行きの援助を打診したが米国艦で行くのがよいと言われた、と語っている。

つまり、慶喜が大坂からの逃亡に際して米軍艦に一時的に乗艦したのは偶然ではなく、計画的な行動であり、米国が要請に応えて慶喜逃亡に手を貸したとも言えよう。


参考:「海軍戦略家アルフレッド・マハンと将軍徳川慶喜」
     https://www.spf.org/opri/newsletter/336_3.html
   研究と教育
     http://rshibasaki.livedoor.biz/archives/51064326.html
   「徳川慶喜公回想談」(昭和41年初版発行)

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